タロットの意外な歴史。占いの道具ではなかったカードが、オカルトの主役になるまで

タロットと聞いて何を思い浮かべるでしょうか。ろうそくの灯る部屋、黒いベールの占い師、めくられる「死神」のカード。古代から伝わる神秘の秘術、というイメージを持つ方が多いはずです。

ところが歴史をたどると、この印象は根本からひっくり返ります。タロットは占いの道具として生まれたのではありません。しかも、まとわりつく「神秘」の大半は、意外なほど新しい時代の後付けなのです。今回は、学術研究で明らかになっているタロットの本当の来歴を追いかけてみます。


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タロットの正体は、15世紀イタリアの「カードゲーム」だった

タロットの原型は15世紀前半の北イタリアで生まれました。誕生の正確な年代や都市(ミラノかフェラーラかボローニャか)には諸説ありますが、大枠は学術的に定説となっています。

肝心なのはその用途です。本来のタロットは「トリックテイキング」と呼ばれる、得点を競い合う遊戯・賭博用のカードでした。占いではなく、ゲームだったのです。

当時のタロットは「カルテ・ダ・トリオンフィ(勝利のカード)」と呼ばれていました。既存の4スート(トランプのマークにあたる組)のカードに、21枚の特別な絵札「トリオンフィ」と「愚者」1枚を加えたのが発明の中身です。

ブリタニカ百科事典も、この発明を1430年代イタリアのこととし、「占いへの転用は1780年頃のフランスで始まった」と明記しています。つまりゲームとして生まれてから占いに使われるまで、約350年もの開きがあるわけです。

初期のタロットは貴族の贅沢品でした。

現存最古級の「ヴィスコンティ・スフォルツァ版」は、ミラノ公フィリッポ・マリア・ヴィスコンティとその後継者フランチェスコ・スフォルツァが注文した手描き彩色のデッキ群で、ニューヨークのモルガン・ライブラリーが所蔵する35枚は当時の一流画家ボニファチオ・ベンボの作と考えられています。

同館は「もともとは貴族の遊戯用の贅沢品で、占い・神秘的用途との結びつきは後代のもの」とはっきり記しています。美術館のお墨付きで「占いは後付け」というわけです。

「古代エジプト起源説」は1781年フランスの創作だった

では、なぜゲーム用のカードが「神秘の秘術」に化けたのか。転機は1781年のフランスです。

当時学者として権威のあったクール・ド・ジェブランが、大著『原初世界』第8巻で「タロットは古代エジプトに起源を持つ」という説を、歴史的根拠なしに打ち出しました。同書に収められたド・メレ伯爵の論考では、タロットは「ヒエログリフ(古代エジプトの象形文字)で書かれた『トートの書』」(エジプトの知の神トートの書物)だとまで主張されます。

ここに、この説の「からくり」があります。1781年の時点で、ヒエログリフはまだ誰にも読めなかったのです。シャンポリオンによる解読は1822年、40年ほど先の話です。読めない文字だからこそ、「このカードにはエジプトの秘伝が隠されている」と何とでも言えました。検証不可能な神秘は、最強の宣伝文句だったわけです。

この説に即座に飛びついたのが、エテイヤという人物でした。彼は1783年以降タロット占いの本を出版し、1789年には「カード占いのための道具」と銘打った史上初の78枚デッキを制作します。しかも「タロットは今から3953年前に編まれた」と、妙に細かい年代まで”特定”してみせました。

エテイヤは、カードが正しい向きで出るか逆さに出るかで意味を変える「正位置・逆位置」の解釈法や、カードを決まったパターンに並べる「スプレッド」の概念を確立し、タロット読みを職業にした最初の人物ともされています。今日の占いの作法の骨格は、ほぼこの人の発明なのです。

神秘化はさらに続きます。19世紀にはエリファス・レヴィが「切り札22枚=ヘブライ文字22文字」という偶然の一致を根拠に、タロットとユダヤの神秘思想カバラを結びつけました。

切り札22枚を「大アルカナ」、残る56枚を「小アルカナ」と呼ぶおなじみの呼称も、19世紀フランスの作家ポール・クリスティアンがカードを「アルカナ(秘密・奥義)」と呼んだことに由来します。神秘のベールは、一枚一枚、近代フランスで縫われていったのです。

ちなみに切り札がなぜ22枚なのかについて、今野喜和人氏の論文は「ゲーム上の要請や時代の趣味で次第に決まったもので、統一コンセプトは推定できない」と整理し、22という数への神秘的な意味づけを「野球の4ボール・3ストライク・3アウト制に神秘的意味を見出すような突飛な空想と大差ない」と一刀両断しています。

ところが、カードの先祖は本当に「エジプト」から来ていた

エジプト起源説はデタラメでした。ところが話には続きがあります。カードのご先祖様は、本当にエジプトから来ていたのです。ただし古代エジプトではなく、中世エジプトを支配したイスラム王朝、マムルーク朝の時代のエジプトから。

そもそもヨーロッパのカードゲーム自体が、イスラム文化圏からの伝来品です(さらに遡ると中国に発するともされますが、これは有力ながら確定していません)。

直接の祖先とされるのが、マムルーク朝エジプトの52枚デッキ。そのスートは「杯・硬貨・剣・ポロ杖」でした。ヨーロッパではポロ競技が知られていなかったため、「ポロ杖」は「棒(ワンド)」に読み替えられます。杯・硬貨・剣・棒——タロットの小アルカナの4スートと、ほぼ同じ構成です。

伝来は14世紀後半で、1379年のイタリア・ヴィテルボの年代記には「サラセン人がもたらした nayb という新しいゲーム」の記録が残っています。

ジェブランの「古代エジプトの秘伝」は創作でしたが、まったく別の意味で、カードはたしかにエジプト経由だった。歴史はときどき、こういう皮肉な二段オチを用意してくれます。

もうひとつ。トランプで使う「切り札(トランプ)」という言葉は、英語の trump が triumph(勝利)を経て、タロットの原名トリオンフィにつながる語源を持ちます。

なお「タロットはトランプの先祖」でも「トランプはタロットの先祖」でもなく、共通の原型カードゲームから枝分かれして生き残った二系統がタロットとトランプというのが今野論文の整理です。両者は親子ではなく、いわば兄弟なのです。

「古代ケルトの秘法」も、実は1910年ロンドン生まれ

現在世界標準となっているデッキは、1909年にロンドンで刊行されたウェイト=スミス版(通称ライダー版)です。

魔術結社「黄金の夜明け団」出身のA.E.ウェイトの指示のもと、同じ団員だった画家パメラ・コールマン・スミスが約6か月で約80点の絵を描き上げました。

数札にまで物語的な情景を描き込み、初心者でも絵から直感的に「読める」ようにした革新は、彼女の独創です。

このデッキは現在までに1億部以上が流通していますが、スミスの名は数十年にわたりデッキ名から外され続け、近年ようやく「スミス=ウェイト版」と呼び直す動きが出ています。

そして占いの定番中の定番「ケルト十字スプレッド」。これはウェイトが1910年刊行の解説書で「古代ケルトの占法」として紹介した10枚展開が活字上の初出です。

ウェイトは「英国で長年私的に使われてきた」と述べましたが、それ以前の記録はなく、ウェイト自身の創案に「古代」の箔を付けた可能性が研究者から指摘されています(真相は決着していません)。

エジプトの次はケルト。「古代◯◯」というブランディングは、タロット史で繰り返されるパターンなのです。

日本のタロットは、ノストラダムスとユリ・ゲラーの「同期」だった

では日本にタロットはいつ根づいたのでしょうか。本格的紹介の嚆矢とされるのが、澁澤龍彦『黒魔術の手帖』(1961年)です。カバラ、タロット、黒ミサ、占星術などをまとめて紹介した先駆的エッセイ集でした。

決定打は1970年代の第一次オカルトブームです。

1973年に五島勉『ノストラダムスの大予言』がベストセラーになり、1974年にはユリ・ゲラーのスプーン曲げがテレビを席巻。この熱気の中でタロットも流行し、1974年には入門書が相次いで出版されます。50代以上の方なら、あの頃の教室や茶の間の空気を覚えているのではないでしょうか。

「1999年に世界が滅びる」に本気でひやりとし、スプーンを握って念じてみた。日本のタロットは、その同じ空気を吸って大衆化した、いわばノストラダムスとユリ・ゲラーの同期生なのです。

近年は学術面の日本語文献も充実してきました。タロット史研究の第一人者マイケル・ダメットらの研究書が『オカルトタロットの歴史』(国書刊行会、2022年)として邦訳され、雑誌『ユリイカ』も2021年に「タロットの世界」を総特集しています。神秘のベールの内側を、日本語で確かめられる時代になったわけです。

意味は後付け。でも、後付けだからつまらないわけではない

ここまで見てきたとおり、タロットの「神秘」はほぼすべて後付けです。エジプト起源は1781年の創作、逆位置とスプレッドは18世紀の発明、「アルカナ」の呼称は19世紀、ケルト十字は1910年。では、タロットはただのまがい物なのでしょうか。

占星術研究家の鏡リュウジ氏は、タロットの歴史を何世紀にもわたる「創造的誤読」の積み重ねと表現しています。

ゲーム用のカードに、時代ごとの人々が新しい意味を読み込み続けてきた。その誤読の連鎖こそがタロットの本体だ、という見方です。

実際、20世紀後半以降は文学やSF、漫画・アニメを取り込んだ無数のタロットが生まれ続けており、日本のサブカルチャーもその一大供給源になっています。

ダメットによれば、現代アメリカでタロットリーディングは「針治療」に近いステータスを与えられているそうです。当たる当たらないの前に、カードの偶然の並びから一つの物語を「読む」行為そのものに、人を惹きつける何かがあるのでしょう。

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実はくまらぼでも、Webアプリ「タロット占い」を自作して公開しています( 完全無料です )。ケルト十字をはじめ、いろいろなスプレッドで無料でカードを引けます。

このアプリにはひとつ変わった特徴があります。占い結果をアプリが断定するのではなく、引いたカードの並びを、ChatGPTやClaudeなどお手持ちのAIに渡して解釈してもらうスタイルにしたことです。歴史を知ったいまなら、こう言えるかもしれません。ケルト十字も1910年の「新作」だったのだから、AIにカードを読ませるのも、意味の後付けと再解釈を重ねてきたタロット史の伝統の、いちばん新しい一章なのだと。

エテイヤが逆位置を発明し、スミスが数札に物語を描き、そして現代人はAIと一緒にカードを読む。600年前のイタリアの遊び道具は、まだ「誤読」され続けています。次にカードを読み替えるのは、あなたかもしれません。

参考文献・参照URL

  • 今野喜和人「タロットカードにおけるアダプテーション」静岡大学学術リポジトリ(PDF): https://shizuoka.repo.nii.ac.jp/record/14648/files/S18-0117.pdf
  • モルガン・ライブラリー「Tarot Cards (Visconti-Sforza)」: https://www.themorgan.org/collection/tarot-cards
  • ブリタニカ百科事典「tarot」: https://www.britannica.com/topic/tarot
  • 国書刊行会『オカルトタロットの歴史』(デッカー&ダメット著、今野喜和人訳、2022年): https://www.kokusho.co.jp/np/isbn/9784336072771/
  • 河出書房新社『黒魔術の手帖』(澁澤龍彦): https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309400624/
  • Wikipedia「Visconti-Sforza Tarot」: https://en.wikipedia.org/wiki/Visconti-Sforza_Tarot
  • Wikipedia「Antoine Court de Gébelin」: https://en.wikipedia.org/wiki/Antoine_Court_de_G%C3%A9belin
  • Wikipedia「Rider–Waite Tarot」: https://en.wikipedia.org/wiki/Rider%E2%80%93Waite_Tarot
  • Wikipedia(日本語)「オカルトブーム」: https://ja.wikipedia.org/wiki/オカルトブーム
  • Artnet News「Pamela Colman Smith Was the Artist and Occultist Who Designed the Iconic Tarot Deck」: https://news.artnet.com/art-world/pamela-colman-smith-rider-waite-tarot-2163627
  • The World of Playing Cards「Mamluk Playing Cards」: https://www.wopc.co.uk/egypt/mamluk-playing-cards
  • Tarot Heritage「The Early Tarot Research of Franco Pratesi」: https://tarot-heritage.com/2012/05/08/the-early-tarot-research-of-franco-pratesi/
  • iFate「Where Does the Celtic Cross Tarot Spread Really Come From?」: https://insight.ifate.com/where-does-the-celtic-cross-tarot-spread-come-from/
  • Collectors Weekly「Tarot Mythology: The Surprising Origins…」: https://medium.com/hunter-oatman-stanford/tarot-mythology-the-surprising-origins-of-the-worlds-most-misunderstood-cards-b05f5c0cfedc
  • 鏡リュウジ『タロットの秘密』(講談社現代新書、2017年)

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