Xでトレンド入りしている「ゲリラ豪雨」。
気象アプリを開いてレーダーを確認した人も多いんじゃないでしょうか。
でも、ちょっと待ってください。
ふだん当たり前のように使っているこの言葉、実は気象庁が「使用を控える言葉」に指定しているんですよ。
しかも語源をたどると、1969年の安保闘争の時代まで遡ることができるんです。
気象の話のはずなのに、気づけば日本語の歴史の旅になってしまう。それがゲリラ豪雨の面白さです。
「ゲリラ豪雨」という言葉は正式な気象用語ではなく、テレビやインターネットなどのマスメディアが局地的な大雨の突発性や危険性を分かりやすく伝えるために使用するようになった俗称です。
気象庁では「局地的大雨」や「集中豪雨」という言葉を使い分けています。
そして、この言葉が世間に一気に定着したのは2008年夏のこと。なんとその年の流行語大賞にも選ばれています。

ゲリラ豪雨とは、局地的に短時間で降る激しい豪雨のことです。
規模が小さく、突発的かつ散発的に起こるため、事前に予測することが難しいといわれています。
もう少し具体的に言うと、ゲリラ豪雨は、20〜30km四方の広さに、数十分ほどの間に数十mmの大雨が降ります。
隣の町では晴れているのに自分のいる場所だけが土砂降り、という光景はこのせいです。
原因を作っているのは「積乱雲」という雲です。
上空の寒気の影響や、日差しで地面が熱せられて地表近くの空気の温度が上がることにより大気が不安定になり、活発な対流が起こると、強い上昇気流に伴って発達した積乱雲が発生します。
発達した積乱雲は、局地的に短時間で強い雨を降らせ、ゲリラ豪雨をもたらします。
そして
ひとつの積乱雲の大きさは直径数km〜十数kmとほかの気象現象に比べて小さいうえ、雨の時間も短いため、今の天気予報の技術では正確に予報することが難しいのです。
「大気の状態が不安定」という言葉が天気予報に出てきたら、それがサインだと覚えておきましょう。

ここが今日の記事の核心です。
江戸時代から明治にかけて、夏の午後に突然降る激しい雨のことを日本人は「夕立(ゆうだち)」と呼んでいました。
夕立は夏の午後のにわか雨で、ときに雷をともない激しく降るが短時間で止み、涼しい風が吹きわたる現象です。
俳句の季語としての記録は『花火草』(寛永13年、1636年)にまで遡ります。
つまり、400年近く前から日本人はこの現象を詠んでいたんですよ。
松尾芭蕉と同時代の俳人・宝井其角(たからい きかく)も夕立を題材にした句をいくつも残しています。
「夕立や江戸は傘うりあしだ売り」という句のように、江戸の人々にとって夕立は日常の風景であり、どこかユーモラスに受け入れられていたものでした。
それが「ゲリラ豪雨」という物騒な呼び名に変わったのは、いつからでしょう。
「ゲリラ豪雨」という語の初期の使用例には、1969年8月上旬の東北、信越、北陸地方の豪雨があります。
このとき、少なくとも『読売新聞』、『朝日新聞』、『毎日新聞』の3紙の記事の見出しに使われていたことが確認されています。
そして、安保闘争(70年安保)や大学紛争の話題が紙面を踊っていた時代背景も影響したという指摘があります。
なるほど、社会がきな臭かったあの時代に、「奇襲・突発・予測不能」というゲリラのイメージが大雨の表現にそのまま流用されたというわけです。言葉は時代のムードを吸い込んで生まれるんですね。
昔から言われる「夏の夕立」という現象の多くが、現代でいうゲリラ豪雨(局地的大雨)にあたります。
現象そのものは変わっていないのに、言葉が変わると受け取り方まで変わる。
「夕立」は風情があり、「ゲリラ豪雨」は緊張感がある。同じ雨なのに不思議です。
そして決定打となったのが2008年夏。
用例はあったが普及していなかった「ゲリラ豪雨」という呼称は、集中豪雨が日本国内各地で続発した2008年夏以降、一般に広く使用されるようになりました。
テレビのアナウンサーや気象予報士が連日この言葉を使い、あっという間に日本中に広まったのです。
ただし、この言葉には批判もあります。
気象庁は「ゲリラ豪雨」を使用を控える予報用語に位置付けていて使用せず、「局地的大雨」「集中豪雨」などの語を使い分けています。
気象庁天気相談所は「たとえば、小学生の中には『ゲリラ』という言葉の意味がわからない子がいるかも知れません。
また、日本にいる外国人の方々の母国語に訳しても、多分伝わらないでしょう」と説明しています。
さらに面白いことに「夕立」は俳句の季語ですが、同じように突然降る強い雨である「ゲリラ豪雨」は、まだ季語とはなっていません。
約400年の歴史を持つ「夕立」と、わずか数十年の「ゲリラ豪雨」。俳句の世界では、まだ新参者という扱いです。

ゲリラ豪雨の話題になると「最近増えた気がする」という声をよく聞きますが、これは気のせいではありません。
東京の観測開始以来約120年間の降水量を分析した研究によれば、夏の夕方(6〜8月の17〜23時)の降水量は100年当たり50%の割合で増加しているのに対し、他の季節や時間帯では30%未満の増加にとどまっています。
その原因として有力視されているのがヒートアイランド現象です。
緑地が少なく、アスファルトやコンクリートの面積が広い都市は、地表面から大気に与える熱が多くなります。
また、空調や自動車の使用で発生する「人工排熱」も多く、これらにより上空との温度差をより大きくし、突発的かつ局地的な豪雨へとつながるようです。
猛暑日が増えるほど、夕方のゲリラ豪雨も増える。都市化と気候変動が複雑に絡み合っています。
2023年における日本の水害被害額は6,800億円にもおよびました。
他人事ではない数字です。
鹿児島に住んでいると、夏の雨は本当に日常茶飯事です。「ゲリラ豪雨」という言葉が定着する前から、南九州の雨は十分に「ゲリラ的」でした(笑)。
でも今回調べてみて一番おもしろかったのは、現象そのものよりも「言葉の歴史」でした。
江戸の俳人が涼しい顔で詠んでいた夕立が、安保闘争の時代の空気を吸い込んで「ゲリラ豪雨」に変わり、2008年の流行語大賞を獲る。
これって、雨の話というより日本語の歴史のドラマですよね。
気象庁が使わないのに全員が使っている言葉。言葉は生き物だとつくづく感じます。
あなたは「ゲリラ豪雨」と「夕立」、どちらで呼びたいですか?
この記事のポイント
- 「ゲリラ豪雨」は気象庁が使用を控える非公式の俗称で、正式名称は「局地的大雨」
- 語源は1969年の新聞記事まで遡り、安保闘争の時代背景が命名に影響したとされる
- 東京では夏の夕方の降水量が過去約120年で100年当たり約50%増加しており、ヒートアイランド現象との関連が研究されている
くまらぼ 
