中国AI企業Manycore、香港上場初日に187%急騰 — 「空間知能」で世界初の上場企業に


2026年4月17日、中国・杭州のAIスタートアップ「Manycore Tech(群核科技)」が香港証券取引所(HKEX)メインボードに上場し、初日の取引で株価が最大187%急騰しました。

IPOでは約1億5600万ドル(約234億円)を調達。公募価格7.62香港ドルに対し、終値は18.60香港ドル(144%上昇)を記録しています。香港の公募は1,591倍、国際募集は14.46倍のオーバーサブスクリプションとなり、世界の投資家からの圧倒的な支持を集めました。

Manycore Techは「空間知能(Spatial Intelligence)」に特化した企業としては世界初の上場企業となり、中国AI業界の新たなマイルストーンとなっています。


Manycore Techとは何か

Manycore Techは2011年に設立された杭州ベースのテクノロジー企業です。創業チームは浙江大学・清華大学の出身者で、NVIDIA、Microsoft、Amazonでの勤務経験を持つメンバーで構成されています。

もともとの主力製品は「Kujiale(酷家乐)」という3D空間デザインプラットフォームです。インテリアデザイナーや家具メーカー、リフォーム会社が、部屋の3Dレンダリングをフォトリアリスティックに作成できるツールで、中国の空間デザインソフトウェア市場で23.2%のシェアを持つ最大手です。海外版は「Coohom」として展開されています。

しかし、同社の本質的な価値は、そのデザインツールから蓄積された膨大な3D空間データにあります。部屋の形状、照明、素材の物理特性など、現実世界の空間を忠実に再現するデータは、ロボットやAIが物理世界を理解するための訓練データとして極めて高い価値を持っています。


「空間知能」とは何か — LLMの次のフロンティア

Manycore Techが掲げる「空間知能」は、ChatGPTやDeepSeekのような言語ベースのAIとは根本的に異なるアプローチです。

言語AIが「単語」の世界を理解するのに対し、空間知能はAIに「物理的な空間」を理解させることを目指しています。具体的には、空間の復元(3Dスキャンからの再現)、空間の生成(新しい3Dコンテンツの自動生成)、空間の編集(既存空間の修正・最適化)、空間の理解(物体の配置や関係性の認識)の4つのコア能力を統合しています。

同社は2025年に空間言語モデル「SpatialLM」と空間生成モデル「SpatialGen」をリリースしました。オープンソースで公開されたSpatialLMは、Hugging Faceのトレンドプロジェクトでトップ3にランクインし、DeepSeek-V3やQwen2.5-Omniといった大手モデルと並ぶ注目を集めました。

Fortuneの取材に対し、共同創業者兼会長のVictor Huang氏は「今回のIPOは優秀なエンジニアの採用、GPUの追加購入、そしてさらなるデータ収集のために重要です」と語っています。


「杭州六小龍」のトップバッター

Manycore Techの上場は、中国テクノロジー業界で大きな象徴的意味を持っています。

同社は「杭州六小龍(Six Little Dragons)」と呼ばれる杭州の6つの注目テクスタートアップの中で、最初に上場を果たした企業です。残りの5社は以下の通りです。

DeepSeek(AI/大規模言語モデル)、Game Science(ゲーム「Black Myth: 悟空」の開発元)、Unitree Robotics(消費者向けロボット)、DEEP Robotics(産業用ロボット)、BrainCo(脳コンピューターインターフェース)です。

これらの企業はいずれも最先端技術分野で世界的に注目されており、杭州が中国のAI・ロボティクスイノベーションの中心地であることを示しています。Unitree Roboticsは上海証券取引所への上場を申請中で、中国のA株市場初のヒューマノイドロボット銘柄になる見込みです。


不動産からロボティクスへ — 大胆なピボット

Manycore Techの成長ストーリーの興味深い点は、その事業転換にあります。

同社はもともと中国の不動産市場向けのデザインツールで評価額を築きました。しかし、中国の不動産セクターが低迷する中、同社は蓄積した膨大な3D空間データを活用し、ロボティクスやAIエージェント向けのサービスへとピボットしています。

Bloombergは「不動産市場の一角で10億ドルの評価額を築いたソフトウェア企業が、ロボティクスとAIに第二幕を賭けている」と報じています。

具体的には、LiDARソリューションの世界的リーダーであるHesai Technologyや、上海のロボティクス企業AgiBotとの提携を通じて、インテリアデザイン、EC、ロボット(具現化知能)、映画・テレビ、XR(拡張現実)といった分野に空間知能を応用しています。


堅実な財務基盤

上場時点での業績も堅調です。

2025年の売上高は8億2000万人民元(約164億円)で、粗利益率は82.2%。注目すべきは、2025年に初めて通年黒字を達成し、調整後純利益5710万人民元を計上した点です。

研究開発への投資は2023〜2025年の3年間で10億人民元以上に上り、売上全体の45.5%を占めています。従業員の約41.5%にあたる500名以上がR&D人材です。自社でGPUコンピューティングクラスターも構築しており、高性能レンダリングとAIモデルの訓練・推論を支えています。


香港AI IPOブームの象徴

Manycore Techの上場は、香港市場全体のAI IPOブームの象徴でもあります。

2026年第1四半期だけで、香港では40社がIPOを完了し、合計約140億ドルを調達しています。前年同期比489%増という驚異的な数字です。

特にAI関連銘柄の上昇が著しく、1月にIPOしたMiniMaxは約450%、Knowledge Atlasは約650%の上昇を記録しています。4月21日にはプリント基板メーカーのVictory Giantが22億ドル規模のIPOを予定しており、勢いは止まりません。

北京社会科学院の王鵬研究員は「Manycore TechのIPOは、中国のAIセクターが汎用LLMだけではないという強いシグナルを世界の投資家に送っている。現実世界への応用が強い垂直特化型のハードテック企業にも、高い評価額のポテンシャルがある」とコメントしています。


日本企業への示唆

Manycore Techの成功は、いくつかの重要な示唆を含んでいます。

まず、AIの競争軸が「言語」から「空間・物理世界」に広がっていること。ChatGPTのようなテキストAIが成熟する中、次の成長領域は物理空間を理解するAIです。NVIDIAの「物理AI」戦略とも完全に合致しています。

次に、既存データの再活用が大きな価値を生むこと。Manycore Techは設計ツールから蓄積した3Dデータを、まったく新しいビジネス(ロボット訓練データ)に転用しました。日本の中小企業が持つ業務データも、AI時代にはこうした「二次的な価値」を持つ可能性があります。

そして、中国のAIイノベーションは加速し続けているということ。DeepSeekに続くManycore Techの上場は、杭州がシリコンバレーに並ぶAI拠点として定着しつつあることを示しています。


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